記憶の道具 

記憶の道具

蝋を「時を保存できる素材」と考え、無くなってしまう祖母の家と記憶を表した道具

蝋と時の関係

 母と祖母は長年、蝋結染めをしていた。私の幼少期を遡ると殆どない記憶の中でも蝋が溶けるときの匂いや、刷毛で布を染めているときの音などが鮮明に残っている。今でも蝋の匂いを嗅ぐと幼少の時の記憶が蘇る。そこに蝋と時の関係性を感じた。

私には保存したい存在がある。
それは祖母の家

 祖母の家は壊される話が出ていたが、私には特別な場所だった。その家に行けばいつでも何かを作ることができたり、何か足りないものがあってもなんでもある4次元ポケットみたいなところだった。幼少期には、染色しているところをよく見ていた事もあり、思い入れがあり居心地の良い場所だった。そして何よりそこで祖母や家族と話したりご飯を食べたり遊んだりした記憶はかけがえのないものだった。

蝋を灯すということ

 蝋燭を作り火を灯すということ。それは一見記憶を燃やすという暴力的な行為に見えるかもしれない。ただ私は火というものを、人と人との心を開いてくれる鍵のようなものだと捉えている。例えばキャンプの夜、火の前にいる人は自然と普段話せない胸の内を話せたりする。
 祖母は最近物忘れが激しくなり、記憶が遠のくことが多くなった。蝋燭を灯しながら話すことで祖母の中でも記憶が保存できることを願い、私と祖母で火を灯し会話をした。

型の重要性

 この作品では蝋を形取るための「型」も大切な要素である。型がある限り同じものを何度でも複製することができる。蝋という素材自体が時を保存する意味を持っていると考えているので、形を作り出す型があればこの作品は作り出すことができる。
 記憶というものは脆くて儚く遠いものでもあるが、それは時々思い出すことで案外身近な存在となる。